考えごと

散歩、ポエム、むらさき。

2022-01-01から1年間の記事一覧

拝啓犬様

犬様 拝啓 寒さもひとしお身にしみる頃となりましたが、犬様におかれましてはご活躍のこととお喜び申し上げます。犬様のお陰様で、私もささやかながら幸せな日々を暮らしています。 人の世は相変わらず騒がしいものです。私は美しい人と美しくない人を勝手に…

宿木姫

私が私だった頃の事を思い出す。私の人生は喪ったものを取り戻す旅路だった。そして喪う為の旅路だった。どこからか降ってきた涙が目を潤した。きっとお空の誰かが泣いたのだろう。私は哀しくないのだから。 段々と目が醒めていく。夢のような真っ白なドレス…

泥の羊水

臍の緒が切れると、人間はマザーコンプレックスを発症する。恋とは、ただ繋がっているという安心感を求める感情だ。裏切りを恐れ、人間を恐れ、それでも誰かを信じてみる。常に片手落ちの信頼だ。中華料理店の店員に向ける程度の信頼。俺は核兵器が好きだ。…

売り物の花と舌の上の宇宙人

僕が思うに、選択肢の多さは人生にはむしろマイナスに働く。要らない可能性の芽を摘んでいって、育てたい可能性の芽にだけたっぷり栄養をやる。大きくて綺麗な花を咲かす為には自然を否定して、人工性を寛容しなけりゃならない。目の前に在るもの、目に映る…

暗黒は斯く独り言ちた

逆恨みをしたダニが腕や脚を這うようで、ダニ殺しのパッドを寝具に忍ばせた。虫の好みそうな、風変わりな、不快な甘い匂いがする。俺は足首に包帯を巻いた。それから、病室で他人の幸せを願った。左手には愛と憎でできたカフェオレ。君に付き纏う虫を火に焼…

切断主義者のディスクール

これは両義的な言葉遣いの実演。語る舌は器用な舌捌きにして果物に刃を入れ、新鮮な断面を我らが眼前に献上する。切り出さなければ果物の内面性は空虚な暗黒──無味な事実である。切断によって産まれるものは美、そしてそれから続くものは腐敗。現代では腐敗…

渚ヘッドショット

長く続いていた雨が止んだ。頭はまだボヤけているが食事と排泄を繰り返している内に「悪趣味な筒だ」と理解する羽目になった。長く伸びた爪の匂いが気になって、不潔な身体を浜の熱風で消毒することを思いついた。名案だ。生乾きのトレンチコートを掴みサン…

魔法使いの君

月夜の受け皿であるこの部屋に月光は有機的なカーブを描いて注がれる。秒針が響く灰色の部屋だが、この冴えない時間に於いては誰も知らない廃墟に放り出されたようでいて心地が良い。孤独を歓楽しているのだから受け取った手紙は荷物棚に置いて行く。自然法…

スケジュール

テクストは我々の周りを周遊し、テクストは休日にはそこらを浮遊している。それは幽霊のようだ。人間はみな用がある時にだけ話を持ち掛けて来る。冷たいやつだ。意味のない冗談と体調を気に掛ける言葉を投げ掛けるのが正しい人間というものである。この場合…

一本差しの花束と世界を溶かす爆弾

死に似た緩やかな穴に断ち切りの髪の毛が滑り込む午下りのように、劣等感と後悔と劣等感と──が、無限の縞模様を予期させる渦を描き、自然の摂理によって穿たれた得体の知れない黒い穴に飲み込まれてゆく。それは、永久の夜更け。 未だ推敲の続く物語が出し抜…

左利きテセウスの餡パン男

天井には幽霊が住んでいる。だから目を開けるのが恐ろしい。暗闇が好きだ。光がなければ何も見なくていいし、何も見なければ何もしなくていい筈だから。答えの無い考え事をしながら、毎回遅刻してやって来る睡魔を待つだけでいい。例えば──俺は君が好きだけ…

心臓の骨

セックスか散髪をしたい。或いは死にたい。或いはこの世の全ては壊れやすく、当然、俺はその内のひとつだった。光は電気装置の爛れた廃棄物。つまりアミューズメント。俺の生は既に執着の対象外へと──素直な言い方をすれば、エロい天使のように堕落した。俺…