考えごと

散歩、ポエム、むらさき。

2023-01-01から1年間の記事一覧

黄色い日記

「俺はこう見えても日記をつけているんだ。もう5年。6年。いや8年か。」「へえ、日記を。お前がね。」「8年前というと、書き始めは思春期だから。てぇことは6年前か。まあいいや。とにかくその頃はなんとも瑞々しいというか、気色が悪いというか、正直に言え…

自動販売機の影にて

気がつけばもうずっと、闇に頼っていた。闇によって産み出されたものが素晴らしかったとして、力を誇示し、己の肯定を続けるために、ますます闇に救いを求めるようになる。無尽蔵にも思える闇の源泉は、淫魔のように魅力的に目に映るのである。けれども力の…

形而上女子高生

「もしもし、かめよ。かめさんよ。せかいのうちに、おまえほど、あゆみののろい、ものはない。どうして、そんなに、のろいのか。」 「なんとおっしゃる、うさぎさん。そんなら、おまえとかけくらべ。むこうの、こやまのふもとまで、どっちがさきにかけつくか…

窓のない廊下

我々の仕事というのは無いところに煙を立ち上げるものだ。負い目を感じても仕方がない。生きていかなければならないのだから。存在と不在を好き勝手に入れ替えて猿を騙す手品。まるでスキゾな不安を詰め込んだお菓子の箱だ。甘い匂いだけして、ひとつも食べ…

眼窩底撈魚

「あ、死んだ魚が!俺みたいな目をしている!」と叫ぶ声。工場の壁の有刺鉄線の柵を乗り出す男の背中が、その日の作業中ずっと、目に焼き付いていた。帰りに遠回りをして壁の向こうを確かめたが、そこには死んだ魚はおろか、池も川も何もなかった。男の目は…

人間卒業式

今朝は唐揚げになる人間の夢を見た。タイトルは「人間卒業式」。なんで夢にタイトルがあるのかは知らない。卒業する彼と、最後の会話だと思って話していたら、カセットテープだったの、最後まで理解できないな。皿に体重分盛りつけられたって、男にだって食…

宇宙チャンク・糸電話

ケース・スタディ。ある自我の内面を切断し、複合体の腑を現象、分析、乗り越えを行う為に作品が作られるストイシズム。バシュラールやアルチュセールの切断は切開ではない。欠損とは、傷ではない。ドライブをする自我は途方もなく何処かへ連れ去られてしま…

りんごの断面

ある晴れた日曜日。太陽は頭上に高く、時間は恐らく十三時を回ったあたり。二人の男がブランコに座っている。右には白のシャツを着た清潔そうな男。左にはラクダ色のセーターを着た眠たげな男。ブランコは気怠げに揺れる。錆びた鎖は湖畔に浮かんだボートの…

思念する魚・エコーチェンバー

「才能を煮詰めたコッテリ系のグレッチで脳天殴たれたら、冷凍庫に隠してた自信も水になっちまう。きっと、春に解ける氷像みたいなスローライフを送ったらいいんだ。そうだ、その通りにしよう。」 千度目の夜、崇拝と絶望の混濁した畏怖の感情に俺は打ちひし…