考えごと

散歩、ポエム、むらさき。

黄色い日記

「俺はこう見えても日記をつけているんだ。もう5年。6年。いや8年か。」「へえ、日記を。お前がね。」「8年前というと、書き始めは思春期だから。てぇことは6年前か。まあいいや。とにかくその頃はなんとも瑞々しいというか、気色が悪いというか、正直に言え…

自動販売機の影にて

気がつけばもうずっと、闇に頼っていた。闇によって産み出されたものが素晴らしかったとして、力を誇示し、己の肯定を続けるために、ますます闇に救いを求めるようになる。無尽蔵にも思える闇の源泉は、淫魔のように魅力的に目に映るのである。けれども力の…

形而上女子高生

「もしもし、かめよ。かめさんよ。せかいのうちに、おまえほど、あゆみののろい、ものはない。どうして、そんなに、のろいのか。」 「なんとおっしゃる、うさぎさん。そんなら、おまえとかけくらべ。むこうの、こやまのふもとまで、どっちがさきにかけつくか…

窓のない廊下

我々の仕事というのは無いところに煙を立ち上げるものだ。負い目を感じても仕方がない。生きていかなければならないのだから。存在と不在を好き勝手に入れ替えて猿を騙す手品。まるでスキゾな不安を詰め込んだお菓子の箱だ。甘い匂いだけして、ひとつも食べ…

眼窩底撈魚

「あ、死んだ魚が!俺みたいな目をしている!」と叫ぶ声。工場の壁の有刺鉄線の柵を乗り出す男の背中が、その日の作業中ずっと、目に焼き付いていた。帰りに遠回りをして壁の向こうを確かめたが、そこには死んだ魚はおろか、池も川も何もなかった。男の目は…

人間卒業式

今朝は唐揚げになる人間の夢を見た。タイトルは「人間卒業式」。なんで夢にタイトルがあるのかは知らない。卒業する彼と、最後の会話だと思って話していたら、カセットテープだったの、最後まで理解できないな。皿に体重分盛りつけられたって、男にだって食…

宇宙チャンク・糸電話

ケース・スタディ。ある自我の内面を切断し、複合体の腑を現象、分析、乗り越えを行う為に作品が作られるストイシズム。バシュラールやアルチュセールの切断は切開ではない。欠損とは、傷ではない。ドライブをする自我は途方もなく何処かへ連れ去られてしま…

りんごの断面

ある晴れた日曜日。太陽は頭上に高く、時間は恐らく十三時を回ったあたり。二人の男がブランコに座っている。右には白のシャツを着た清潔そうな男。左にはラクダ色のセーターを着た眠たげな男。ブランコは気怠げに揺れる。錆びた鎖は湖畔に浮かんだボートの…

思念する魚・エコーチェンバー

「才能を煮詰めたコッテリ系のグレッチで脳天殴たれたら、冷凍庫に隠してた自信も水になっちまう。きっと、春に解ける氷像みたいなスローライフを送ったらいいんだ。そうだ、その通りにしよう。」 千度目の夜、崇拝と絶望の混濁した畏怖の感情に俺は打ちひし…

拝啓犬様

犬様 拝啓 寒さもひとしお身にしみる頃となりましたが、犬様におかれましてはご活躍のこととお喜び申し上げます。犬様のお陰様で、私もささやかながら幸せな日々を暮らしています。 人の世は相変わらず騒がしいものです。私は美しい人と美しくない人を勝手に…

宿木姫

私が私だった頃の事を思い出す。私の人生は喪ったものを取り戻す旅路だった。そして喪う為の旅路だった。どこからか降ってきた涙が目を潤した。きっとお空の誰かが泣いたのだろう。私は哀しくないのだから。 段々と目が醒めていく。夢のような真っ白なドレス…

泥の羊水

臍の緒が切れると、人間はマザーコンプレックスを発症する。恋とは、ただ繋がっているという安心感を求める感情だ。裏切りを恐れ、人間を恐れ、それでも誰かを信じてみる。常に片手落ちの信頼だ。中華料理店の店員に向ける程度の信頼。俺は核兵器が好きだ。…

売り物の花と舌の上の宇宙人

僕が思うに、選択肢の多さは人生にはむしろマイナスに働く。要らない可能性の芽を摘んでいって、育てたい可能性の芽にだけたっぷり栄養をやる。大きくて綺麗な花を咲かす為には自然を否定して、人工性を寛容しなけりゃならない。目の前に在るもの、目に映る…

暗黒は斯く独り言ちた

逆恨みをしたダニが腕や脚を這うようで、ダニ殺しのパッドを寝具に忍ばせた。虫の好みそうな、風変わりな、不快な甘い匂いがする。俺は足首に包帯を巻いた。それから、病室で他人の幸せを願った。左手には愛と憎でできたカフェオレ。君に付き纏う虫を火に焼…

切断主義者のディスクール

これは両義的な言葉遣いの実演。語る舌は器用な舌捌きにして果物に刃を入れ、新鮮な断面を我らが眼前に献上する。切り出さなければ果物の内面性は空虚な暗黒──無味な事実である。切断によって産まれるものは美、そしてそれから続くものは腐敗。現代では腐敗…

渚ヘッドショット

長く続いていた雨が止んだ。頭はまだボヤけているが食事と排泄を繰り返している内に「悪趣味な筒だ」と理解する羽目になった。長く伸びた爪の匂いが気になって、不潔な身体を浜の熱風で消毒することを思いついた。名案だ。生乾きのトレンチコートを掴みサン…

魔法使いの君

月夜の受け皿であるこの部屋に月光は有機的なカーブを描いて注がれる。秒針が響く灰色の部屋だが、この冴えない時間に於いては誰も知らない廃墟に放り出されたようでいて心地が良い。孤独を歓楽しているのだから受け取った手紙は荷物棚に置いて行く。自然法…

スケジュール

テクストは我々の周りを周遊し、テクストは休日にはそこらを浮遊している。それは幽霊のようだ。人間はみな用がある時にだけ話を持ち掛けて来る。冷たいやつだ。意味のない冗談と体調を気に掛ける言葉を投げ掛けるのが正しい人間というものである。この場合…

一本差しの花束と世界を溶かす爆弾

死に似た緩やかな穴に断ち切りの髪の毛が滑り込む午下りのように、劣等感と後悔と劣等感と──が、無限の縞模様を予期させる渦を描き、自然の摂理によって穿たれた得体の知れない黒い穴に飲み込まれてゆく。それは、永久の夜更け。 未だ推敲の続く物語が出し抜…

左利きテセウスの餡パン男

天井には幽霊が住んでいる。だから目を開けるのが恐ろしい。暗闇が好きだ。光がなければ何も見なくていいし、何も見なければ何もしなくていい筈だから。答えの無い考え事をしながら、毎回遅刻してやって来る睡魔を待つだけでいい。例えば──俺は君が好きだけ…

心臓の骨

セックスか散髪をしたい。或いは死にたい。或いはこの世の全ては壊れやすく、当然、俺はその内のひとつだった。光は電気装置の爛れた廃棄物。つまりアミューズメント。俺の生は既に執着の対象外へと──素直な言い方をすれば、エロい天使のように堕落した。俺…

春眠は暁を忘れる

空が白いと思った。鴉の声のする方、電線の向こうの空を見上げた。明け方の空が虚無を連れて来ていた。硬直した体とは対照的に、眼球は軽妙に往来を行き来する。周囲を包み込む過剰な静けさの出処を探すと、辺り一帯の土が柱を作り凍っていた。そのまま世界…

悪魔たちの善´

耳が悪いのか、私の耳に忍び寄る大学教授らの講評は専ら職業作家の為の効率性の言論ばかりであって、純粋芸術の為の言論とは程遠いようである。学問として実践芸術をやっている私のような人間──何故だか少数派のようだが──からすれば、ガンプラの売り方の話…

陽溜まりの詩

人知れず書き置きを残すだけの静まり返ったブログでも未来的にパブリックであることには変わらないので、何処にも行き場のない文章がメモ帳に堆積してしまいます。山積みの文章を時系列順に整理したくとも日付不明の走り書きの多さに困り果て、今更ながら日…

ピース

私たちはカメラを向けられるとなぜピースをするのか。諸君は考えたことがあるか。誰に教えられたかも覚束ないだろう。このような文化侵略性をひとたび知覚すると何気ないピースサインが恐ろしさを帯びてくる。仄聞するところに拠ると、世界に名高い平和主義…

魘夢記

二回目のワクチン接種副反応に依る熱譫妄の為に二六時中沼田打ち回り、得体の知れぬ脚本を夢幻の中で書いていたような記憶があるが高熱に於いて二時間が六時間にも感じられて時間は伸びたり縮んだりするのかと思って俺の苦しみを悪戯に伸ばすのは何処の誰だ…

盲の詩

我々がいつも美しくあらなければならないのはなぜなのか。なぜ醜くあってはならないのか。それが病巣なのだ。我々の醜さなど今更何を覆い隠そうというのだ。欺瞞などは無為だ。我々の存在が無為であることの証明をしたいのならば他所でやってくれ。そんなも…

交換可能な生活

現代日本人は日本人の思想的ネオテニーであって、日本人とは殆ど別種です。狼が犬化したように、家畜化され牙を削がれ調教された日本人の情け無い様に落胆するのは哀しみゆえ。地を這う蟻が鳥のようには空間を認識できないように、ひとの頭の悪さについては…

戯言

時間を溝に捨てると溝に時間が溜まって行きますので、いつか溝浚いをしたときにかつて捨てた時間が見つかります。ハムスターが頬にひまわりの種を蓄えるのもこれと同じ原理ですから、時間を溝に捨てるというのも実は建設的な話になります。ですので、これを…

紫陽花が青い理由

不寛容な雨が缶酎ハイを限りなく薄めて行く。精神的潔癖、精神以外が潔癖であるということなどないだろう、と思う。いずれにしても肉体は穢れているし、肉体は救えない。我々の肉体に清潔などあり得ない。精神だけが存在している限り、肉体的闘争も政治的闘…