考えごと

散歩、ポエム、むらさき。

狂言

 好きになるのは辞めてくれ。嫌いになるのも辞めてくれ。人と人が隣り合うことが美しい、そういうことを思いたいだけなのだから無思慮な暴力は辞めてくれ。浅ましさの為に悪辣たる暴力を振り撒いている自覚はないのだろうか。直ちに自省を以て恥ずべきであるとは思うのだが、恥を促すのもまた罪深い。果たして私に暴君を誹る権利はあるのか。耐え難い思考の迷宮を反響する、嘲笑を含んだ囁き。その奥に出口は無いと、娘が嘯く。

 別れた恋人のことを思い出す。掛け替えなく愛していたこと、離別が必然であること、関係が不可逆なこと、代替が不可能であること、今を以て愛していることのすべてを心底から理解し、辟易している。人生を作品にしようする歪んだ本能と、脳の変容が止められないのだ。時計が壊れて行く音が聴こえる。鬱に伴って酷く頭痛がする。純然たる動物が矛盾することは有り得ないが、論理というのは必ずある箇所で矛盾する。その事実が、論理を信仰すれば人は必ず狂うことを証明するのだ。論理を放棄すること、それは賞賛されるべき勇気ではあるが、結局のところ拠り所を他所に求める行為に他ならない。それ故に人は救われなければならない。

 私には狂った生き方しか出来ず、狂う事でしか自我を保てないのだ。それが一つの拠り所であり、或いは他に拠り所を持つことはないのかもしれない。この世にたった一人孤独である私は弱者であることを許されない。許されないことが肉体や自由に直接罰を与えることはないが、社会制度など意味を持たない。諸君らが弱者で居続けることは余りに容易く、甘美な果実であろう。誰かに文句を言われることはなく、寧ろ文句を垂れることが許される。弱者で居るということはとても狡く剰え脅迫的ですらあるということを自覚するべきだ。

 常々私は誤解されている。惑星探査機がエンジンの噴出で軌道制御をするように、発言というのも計算され尽くした軌道制御である。意図された発言の中で矛盾は隠すべき瑕などではなく、全くもって意味を持たない。或いは矛盾によって叙述するのが人間の特権なのである。